対スーダン政策 米『アメとムチ』に転換
2009年11月25日 朝刊
米国がブッシュ前政権下のスーダンに対する孤立化政策を見直し、「アメとムチ」の「関与」を進めている。同国西部のダルフール紛争での大量虐殺をめぐって国際刑事裁判所がバシル大統領に逮捕状を出すなど、国際社会が圧力を強める中での路線転換。オバマ大統領は先の訪中で、スーダン政府と関係の深い中国に強硬な姿勢を示さなかった。北朝鮮やイランの核問題では難航する「対話路線」だが、対スーダン外交で活路を見いだせるのだろうか。 (ワシントン・嶋田昭浩)
「石油・ガス開発での協力は政治・経済・文化面での結び付きを促進するだけでなく、両国民に利益をもたらす」。スーダンを訪問した中国共産党の周永康・政治局常務委員は今月十七日、ハルツームで両国関係の緊密さを強調。周常務委員とスーダンのタハ副大統領立ち会いのもと、中国国有「中国石油天然ガス集団」とスーダン政府が、石油精製合弁事業をさらに拡大する合意文書に調印した。
この日、北京では、アジア歴訪中のオバマ米大統領と胡錦濤中国国家主席が会談。大統領は、報道陣を前にチベット問題にはわずかに言及したが、経済面での米中関係を配慮してか、中国による武器供与問題が指摘されるスーダンについては一切、触れなかった。
昨年の大統領選挙期間中、オバマ氏はスーダンに対し制裁強化も含めた強硬措置をとると表明。ダルフール問題を理由に北京五輪開会式をボイコットするよう当時のブッシュ大統領に求めていただけに、今回は手のひらを返したような対応だ。
関与政策は先月十九日、クリントン国務長官らが発表した。「対話」を交えることによる和平進展が目的とされた。しかし、大量虐殺をめぐる法律問題の専門家ジェリー・ファウラー氏は「大統領は公の場で沈黙し、スーダン和平を主導するつもりがないと関係国に思わせてしまった」と指摘する。
同氏は「新戦略は他国との協調なしには機能しない」と断言。対スーダン投資が膨大な中国と、スーダン原油の精製を手がける日本への訪問を「最初のテスト」と位置づけ、日中首脳をどう新方針に巻き込んでいくか、注目していたという。
では、大統領はなぜ、強硬措置の公約を修正したのだろうか。
「第一にダルフールの現地情勢の変化」とするのはスーダン問題に詳しい米コロンビア大のマフムード・マムダニ教授。「国連・アフリカ連合(AU)合同の平和維持活動(PKO)部隊司令官らが認めているのは、二〇〇五年以来、ダルフールでの一般市民の死者数が急激に減少したことだ。(西部の)ダルフール紛争はもはや非常事態とみなされなくなった」という。
むしろ、状況が悪化しているのは南部だと指摘。「米国のスーダン政策はダルフールにとらわれ過ぎだった。『大量虐殺』という言葉に引っ張られたイデオロギー政策から、利益で誘導する柔軟なギブ・アンド・テーク型政策への転換である。南北の内戦は死者も多く、人種間の殺害という性格が強いが、『大量虐殺』とはみなされず、(当事者間の)交渉が可能だ」と、新方針に一定の期待をかける。
一方、ファウラー氏は関与政策に関連し、「スーダンへのいかなる債務免除も、実のある政治的変化を条件にしてほしい」と日本などに求めている。
<スーダン問題> アフリカ大陸で最大の国土を持つスーダンでは、1983年に当時のヌメイリ大統領がイスラム法を導入。首都ハルツームを含む北部に対し、南部のキリスト教徒の黒人民族などが反発し、南北内戦が続いた。89年に無血クーデターで政権を握ったバシル大統領もイスラム化を推進。2003年、アラブ系の中央政府に対し、西部ダルフール地方の黒人住民らが武装闘争を始め紛争に陥った。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2009112502000106.html