2008年9月18日木曜日

国際刑事裁判所とは

【明解要解】国際刑事裁判所とは
2008.8.27 06:55

オランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷に入るカラジッチ被告(中央)=7月31日(AP)■戦争犯罪審理、難しい「侵略」の定義

 ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争時の戦犯カラジッチ被告(63)が29日、再びオランダ・ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(ICTY)に出廷する。前回留保したジェノサイド(大量虐殺)などについて罪状認否を行うとみられる。ハーグには国際刑事裁判所(ICC)もあり、最近、スーダンのバシル大統領の逮捕状を請求して波紋を広げた。国際刑事裁判所の役割と課題とは-。(ロンドン 木村正人)

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 ICTYは旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所とも呼ばれ、旧ユーゴスラビアで起きたジェノサイドなどを犯した人物を裁くため1993年に設置された。この考え方をさらに発展させたICCは、領域を一定の国に限らない独立の常設裁判所として2002年に発足。通常の刑事裁判所とは異なり、主に3つの犯罪が扱われている。

 (1)ジェノサイド=国民・民族・種族・宗教団体の全部または一部を破壊するため、構成員を殺害する。

 (2)人道に対する罪=戦時、平時に関係なく、国家または組織の広範な政策として一般市民に殺人、人身売買、拷問などを行う。

 (3)戦争犯罪=国家間の戦争、国内の紛争で捕虜または占領地の民間人らに対する非人道的な取り扱いや意図的な攻撃などを行う。

 ICCには現在、日本を含め106カ国が加盟し、昨年11月には、外務省出身の斎賀富美子さん(64)が裁判官に選ばれた。
法廷で戦争犯罪を裁こうという構想の歴史は古い。第一次世界大戦後、戦勝国は、敗戦国のドイツ皇帝ウィルヘルム2世を特別裁判所で裁こうとしたが、亡命先のオランダが引き渡しに応じず実現しなかった。

 第二次世界大戦後は、ニュルンベルク国際軍事裁判、極東国際軍事裁判(東京裁判)が行われ、ドイツと日本の戦争指導者が裁かれた。平和に対する罪、人道に対する罪という新しい戦争犯罪の概念が適用されたが、2つの明文規定は戦時には存在せず、原爆投下など戦勝国の戦争犯罪はまったく問題にされなかったため、今でも疑義が残る。

 その後、国際刑事裁判所設立の動きが出たが、米ソ冷戦で約半世紀にわたって凍結。冷戦終結後、バルカン半島などで民族紛争が続発し、1990年代に臨時の国際刑事裁判所が設けられた。

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 ICCは侵略の罪も裁けると規定されるが、侵略の定義が難しく、棚上げされたままだ。ブッシュ米政権は米兵訴追の回避を理由に署名を撤回、ロシアと中国もICCには参加していない。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(本部ロンドン)の法律顧問オドノヒュー氏は「最大の問題はICCが独自の警察力を持っていないことだ」と語る。

 起訴から13年に及んだカラジッチ被告拘束の舞台裏を知る英対外情報部(MI6)元幹部は「裁判を成功させるため、英国の情報部員が欧米の相手役に協力を呼びかけた。拘束が実現したのはバルカン半島の安定が各国の国益にかなっていたからだ」という。戦犯法廷の成否は国際社会の平和への情熱にかかっている。

http://sankei.jp.msn.com/world/europe/080827/erp0808270655001-n2.htm