2008年9月7日日曜日

次期大統領が直面する遠大な課題 リチャード・ホルブルック氏08年9月号

次期大統領が直面する遠大な課題 リチャード・ホルブルック氏08年9月号
リチャード・ホルブルック元米国連大使次期大統領が直面する遠大な課題

リチャード・ホルブルック/元米国連大使


 アメリカ市民がこの国の内外の現状に大きな不満を抱いている以上、オバマもマケインも「自分が大統領になれば、変化をもたらせる」と強調しているのは驚きではない。そして二人とも、アフガニスタンをもっと重視していくと発言している。当初は大きな成功を収めながらも、その後ブッシュ政権が、現地の問題を無視し、誤算を犯し、管理を間違えたためにアフガニスタン情勢は著しく悪化した。

 二人とも、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)同盟国との関係を強化していくと約束している。また、表現は違うものの、二人とも最近のロシアの行動、とりわけ、グルジアに対する行動を憂慮していると表明している(だがマケインは、ロシアを非常に敵対的なトーンで批判し、G8から締め出すことを求めており、勇み足を踏んでいる。もっともマケインも、他のG8メンバー国がそれに同意することはなく、そもそもロシアを締め出すことが悪いアイデアであることは認識している)。

 両氏とも、米陸軍を立て直し、アフガン、イラクで傷を負った米兵へのケアにもっと力を入れていくと約束し、ともにイスラエルの防衛にコミットしていくと表明している。また、両氏ともグアンタナモ米軍基地の収容施設を閉鎖し、拷問を禁止すると述べている。(もっとも、最近の上院における投票をみると、実際には、二人の立場には大きな開きがある。米軍の実践マニュアルに書かれている拷問禁止のルールを中央情報局〈CIA〉にも適用することについて、オバマは支持し、マケインは反対している)。だが、二人の価値観とスタイルの違いをめぐる重要な洞察の手がかりとなり、外交の役割への両氏の認識の違い、アメリカの自画像についての対照的なビジョンを浮き彫りにしているのは、二人の立場の違いのほうだ。

 オバマの政策の特徴は、地球温暖化、エネルギー、アフリカ、キューバ、イランなど、それが何であれ、課題を前向きに進化させていくと表明している点にある。彼は、変化し続ける新しい現実に適応できるように、古い、硬直化した政策を調整していくと表明し、アメリカのパワーと影響力を強化する手段としては外交が最善であると強調している。貿易面では、マケインはオバマのことを新保護主義者と批判しているが、実際にはオバマは、労働や環境基準にもっと配慮して、相手国における合意への支持を強化できるように、既存の合意を改善していくことを提言している。

 対照的に、マケインの大胆な提案は、新しくもなければ、オリジナルなものでもない。例えば、彼の言う「民主国家連盟」は、マドレーン・オルブライト元国務長官が提唱した「民主国家共同体」という概念を下敷きに拡大したものにすぎない。民主国家共同体という枠組みは今も存在し、単にブッシュ政権が無視しているだけにすぎない。マケインは、民主国家連盟が「国連に取って代わることはない」としつつも、「国連で答えが出ないときには、『民主国家連盟』で集団的行動を起こすこと」を提言している。「新しい民主国家連盟があれば、国連が行動を起こせないときに、モスクワや北京が承認しようがしまいが、ダルフールなどでの人々の苦しみを緩和するために、ミャンマーの軍事政権、ジンバブエの独裁者に対して民主国家が連帯して圧力をかけるために、行動を起こすことができる」と述べ、これこそ「真のリアリズムだ」と主張している。マケインが何と言おうと、オルブライトが組織したフォーラムとは違って、彼の言う「民主国家連盟」については、誰もが国連のライバル組織をつくろうとする試みとみなすだろう。世界の主要な民主国家の高官たちとの私の会話から判断しても、世界最大の民主国家であるインドの指導者はもちろん、もっとも緊密な同盟諸国の指導者でさえも、義務を伴う新しい国際的な連盟は支持していない。

 この8年にわたって資金不足に苦しみ、影響力を失ってきた国連では、反米的なビジョンが目立つようになった。もちろん、国連には欠陥がある。だが、この国際機関はアメリカの外交政策にとって重要な役割を果たせるし、適切に用いれば、アメリカの国益を擁護できる。スーダンのような地域でもより効率的に平和維持活動を果たせるようになる。

 しかし、国連が大きな力を持てるのは、設立メンバーであり、最大の拠出国でもあるアメリカが、国連がそうなることを望んだ場合だけだ。オバマは、ブッシュ政権期に10億ドルを超えるまでに肥大化したアメリカの国連分担金滞納額の支払いを議会に求める一方で、アメリカの国益に合致するように国連を改善し、改革していくことを求めるだろう(アメリカの滞納額がほぼ同じ規模に達した時期が過去にもあったが、クリントン政権はその末期に、この滞納分を支払っている)。国連改革に再度取り組むのではなく、新しく民主国家連盟をつくれば、マケインが支持する目的に対して逆に作用することになる。

 また、マケインは、2008年5月27日にデンバー大学で行った核拡散に関する演説で、「(アメリカの批准の妨げとなった)包括的核実験禁止条約(CTBT)の欠陥を是正できれば、これまでの自分のCTBTに対する長期的な反対を見直す」と述べている。だが、これはいかにも曖昧で幻惑的な条件だ。

 対照的にオバマは、重要な条約であるCTBTを支持するとともに、いまや有名になったジョージ・シュルツ元国務長官、ウィリアム・ペリー元国防長官、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、サム・ナン元上院議員による連名記事で示されたアウトラインに則して、「核を廃絶していくこと」を最終目標に掲げることを支持している。

 これらを含む二人の立場の違いに目を向ければ、オバマとマケインが、アメリカの有権者に「世界におけるアメリカの役割」についての二つのビジョン、そして外交に対する異なる二つの路線を示していることがわかるはずだ。

 地球温暖化問題を別にすれば、マケインはほとんどの問題をめぐってブッシュ政権の路線を支持するか、現政権以上に強硬な立場を示している(例えばマケインは、ブッシュ大統領が6月末に発表した北朝鮮の核開発停止に関する部分合意を深く懸念していると表明している)。マケインは自分のことを「リアリスト」、また最近では「理想主義的なリアリスト」と呼ぶことを好むが、彼の各問題に対する立場をみると、マケインといわゆるネオコンの立場が似ていることを無視することはできない。実際、ネオコンの多くは、マケインを熱心に支持している。

フォーリン・アフェアーズ日本語版


The Next President

<フォーリン・アフェアーズ日本語版2008年9月号>


http://www.asahi.com/international/fa/TKY200809040150.html