2008年8月6日水曜日

五輪直前テロ 避けよ「血塗られた祭典」2008年8月6日

五輪直前テロ 避けよ「血塗られた祭典」2008年8月6日 

「平和の祭典」が重大な危機に直面している。各国の選手や中国内外から観客が続々と北京入りしているだけに気が気でない。ミュンヘンやアトランタのような「血塗られた祭典」を繰り返してはならない。
 北京五輪開幕を直前にした4日朝、新疆ウイグル自治区西部のカシュガルで、国境警備を担当する武装警察部隊が襲撃され、警察官16人が死亡、16人が負傷したと中国国営新華社電は伝えた。
 事件は夜明け後間もない時間帯に発生。ジョギング中の武装警察部隊員の列にダンプカーが突然突っ込み、手製爆弾を投げ付けた後、刃物で隊員に切り付けたという。
 地元警察当局はテロの計画を事前につかんでおり、しかも最大の厳戒態勢を敷いていたが事件を防止できなかった。
 先月21日にも雲南省昆明市で、2人が死亡するバス連続爆破事件が発生。ウイグル独立派とみられる「トルキスタン・イスラム党」が犯行声明を出した。
 ことし3月にはチベット自治区で大規模暴動が起き、多くの犠牲者が出た。これに関して当初、中国当局は認めようとしなかった。
 あろうことか中国当局はインドに亡命しているダライ・ラマ14世の関与を示し、強い調子で非難を繰り返した。
 これにより五輪を盛り上げるはずの聖火リレーは、世界各地で抗議行動と厳重警戒という異様な状況で展開された。
 ダライ・ラマ側の求めにより、双方の代表が話し合いを持ち最悪の事態を回避したかに見えた矢先のウイグル独立派によるとみられる「テロ」発生である。
 新疆ウイグル自治区は中国北西部にあり、ロシアやモンゴル、アフガニスタン、パキスタン、インドなどと国境を接し、ウイグル族やカザフ族、キルギス族など10余の民族で構成されている。
 1933年と44年に民族国家「東トルキスタン」としての建国が図られたことがあり、中国からの独立運動が続いている。チベット自治区と並び、「火薬庫」といわれる。
 警備当局のウイグル民族に対する取り締まりは、常軌を逸している。弾圧以外の何ものでもない。過酷な弾圧は「憎悪」を呼び、さらなる負の連鎖を招く。
 五輪には悲しい過去がある。ミュンヘン五輪(72年)ではパレスチナゲリラがイスラエル選手団の宿舎を襲撃し、2人が射殺された。96年のアトランタでは五輪記念公園で爆弾が爆発し、2人が死亡、100人余が負傷した。
 窮鼠(きゅうそ)猫を噛(か)む―は前漢に編まれた「塩鉄論」に出てくる。中国政府は強硬一辺倒ではなく寛容の姿勢でウイグル族に臨み、「血塗られた五輪」を招いてはならない