2008年5月10日土曜日

【主張】チベット対話 隣人の意見に耳を傾けよ

【主張】チベット対話 隣人の意見に耳を傾けよ
2008.5.10 03:25

このニュースのトピックス:主張
 チベット騒乱後では初めて、中国政府とチベット亡命政府の非公式協議が行われ、近く公式協議が再開されるという。

 ただし、双方に歩み寄りがあったわけではない。合意したのは対話の継続だけだ。チベット亡命政府によれば、3月の騒乱による死者は200人を超え、中国当局に逮捕、起訴された僧侶ら30人が懲役3年から無期懲役に処せられている。国際社会は重大な人権問題であるチベット問題を注視し続ける必要がある。

 非公式協議は、胡錦濤国家主席の日本訪問直前に中国・深セン市で行われ、日中首脳会談後の8日、インドの亡命政府に戻ったチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の特使が記者会見で協議内容を説明した。この間、北京五輪の聖火がチベット自治区にある世界最高峰エベレスト(中国名・チョモランマ)頂上に到達している。

 中国政府による政治的演出を背景に行われた直接対話で、双方は激しい応酬をしたもようだ。

 チベット特使は「中国政府の悪政が騒乱を招いた」「北京五輪の妨害などしていない」と主張し、騒乱で拘束された人々の釈放や共産党への忠誠を強要する「愛国教育」の廃止を求めた。中国政府側は「独立活動や暴動の扇動、北京五輪の妨害を停止せよ」と従来の主張を変えなかった。

 唯一の希望は「両者はいくつかの具体的提案をした」(チベット亡命政府特使)ことだ。これらの提案を話し合う両者の公式協議が、できるだけ早く再開されるためには、やはり国際社会の圧力が欠かせない。

 その文脈でいえば、日中首脳会談で福田康夫首相が、やや控えめな表現ながらもチベット問題についての日本や国際社会の懸念を伝え、「話し合いを通じた状況改善を強く期待する」と述べたことは評価できる。また、北京五輪開会式への出席について共同会見で、「まだ先のことだ。事情が許せば、前向きに検討する」と確約しなかったのも賢明だった。

 中曽根康弘元首相が主宰した胡主席と歴代首相4人との朝食会では、安倍晋三前首相が「五輪開催によって、チベットの人権状況がよくなるのだという結果を生み出さなければならない」と一歩踏み込んだ発言をしている。

 五輪の成功に政権の安定を託す胡主席としては、まず隣人たちの意見に耳を貸すべきだろう。
http://sankei.jp.msn.com/world/asia/080510/asi0805100327000-n1.htm