2008年4月19日土曜日

北京五輪:聖火リレー 長野・善光寺出発地返上 苦渋の決断「文化財、信者守るため」

北京五輪:聖火リレー 長野・善光寺出発地返上 苦渋の決断「文化財、信者守るため」
 

「さまざまな事情で辞退するしかないと考えた」--。善光寺の若麻績(わかおみ)信昭・寺務総長は18日、長野市役所で開いた記者会見で、辞退に至る経緯を説明した。北京五輪開催を支持しながらも、外部から寄せられる消極意見、そしてチベットで弾圧された人たちと同じ仏教者としての迷い……。判断は苦渋の選択だった。

 寺が動いたのは17日午後。急きょ幹部会議を招集し、各国で妨害行為が相次ぐ聖火リレーについて、境内で出発・点火式をするかどうかを議論した。

 辞退の最大の理由は「文化財や信者を守らなくてはいけないという安全上の問題」。だが、「チベットの人権問題」もあり、議論では、ラサで起きた暴動も対象になった。

 意見の大勢は「辞退すべきだ」。若麻績寺務総長は会見でも「無差別殺人が行われて、チベットの宗教者や仏教者が立ち上がったが、それに対する弾圧は憂慮される」と述べ、中国政府の対応が辞退の一因になったことを示唆した。さらに「五輪憲章は人種や宗教、イデオロギーを超えた平等の理念がある憲章だと考える」とも述べた。

 結局、幹部会議はこの日結論を保留。18日早朝、若麻績寺務総長が幹部に電話で改めて意思を確認し、返上を正式に決めた。

 その後、寺関係者4人が市リレー実行委員会を訪ね、返上を伝え、実行委側も「判断は重い。尊重する」として変更を了承した。

 善光寺によると、1日100件を超える電話があり、その99%が善光寺が出発点となることに消極的な意見だった。「宗教(仏教)の寺として信者の声も(念頭に)ある」と若麻績寺務総長は苦悩の色を浮かべた。

 市実行委は「大変残念」と語った。【福田智沙】

 ◇「返上、立派な姿勢」--石原知事
 16年夏季五輪の招致を目指す東京都の石原慎太郎知事は18日の定例会見で、長野市の善光寺が「チベットの人権問題」などを理由に北京五輪の聖火リレーの出発地を返上したことについて、「立派な姿勢ではないか。同じ仏教徒に対するあわれみ、共感、一種のプロテスト(抗議)として拒否したのはむべなるかなという感じがする」と述べた。

 ダライ・ラマ14世と親交があるという石原知事は「(中国の)大国主義は無理があると思う。文化も民族も違う人間が一つの独裁政権に束ねられていくのは気の毒」と同情。聖火リレーに絡めた抗議活動にも「聖火リレーの混乱のおかげでチベットの窮状が分かってきた」と理解を示した。【木村健二】

毎日新聞 2008年4月19日 東京朝刊


http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080419ddm041040158000c.html