2008年3月19日水曜日

北京五輪を前に、中国でこれだけの人権抑圧

北京五輪を前に、中国でこれだけの人権抑圧
田中龍作2008/03/19


オリンピックを控えた中国で人権抑圧がむしろ強化されている事実が指摘された。ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のケネス・ロス事務局長が東京で記者会見し、「日本政府は中国政府に対して人権侵害をやめるよう働きかけるべきだ」などと訴えた。






 人権問題の国際的な監視団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)のケネス・ロス事務局長が来日し、18日、東京の日本外国特派員協会で記者会見して「日本政府は中国政府に対して人権侵害をやめるよう働きかけるべきだ」などと訴えた。


「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のロス事務局長(日本外国特派員協会で、筆者撮影)
 HRWは今年1月8日付で福田康夫首相あてに「人権と北京オリンピックについて」と題する書簡を送り、中国政府による人権侵害を指摘している。主な内容は次の4項目からなる。

 1、報道の自由に対する侵害……中国政府はオリンピックの間(準備期間も含めて)、メディアに報道の自由を与えると約束した。しかし、外国人ジャーナリストたちは治安当局により嫌がらせ、身柄拘束、脅迫などを受けている。

 2、出稼ぎ建設労働者の権利侵害……北京五輪にからむ建設ラッシュで100万人余りの出稼ぎ労働者が建設作業に従事している。彼らの多くは賃金を騙し取られ、危険な現場で働かせられているにもかかわらず、保険の適用を受けていない。

 3、五輪関連インフラ建設のための強制立ち退き……五輪会場、道路、地下鉄建設のため北京市の広い範囲で再開発が行われている。数千人もの市民が適正な手続きや補償金の支払いもないまま強制立ち退きを迫られ、自宅を取り壊された。

 4、反体制活動家の自宅軟禁など……中国政府が人権を尊重しないことを批判する市民は身柄を拘束されている。自宅軟禁は警察が直接実行している。曖昧な法的根拠や被疑事実で拘束されることが多く、市民は公開裁判を受ける基本的権利も認められていない。

 これらの事実は、今まで大メディアでは控え目に、しかも抽象的にしか報道されてこなかった。だが、世界的な人権監視団体であるHRWが具体的に指摘すると、改めて中国の人権事情の劣悪さを思い知らされる。




 海外のメディアを遮断していることもあって実情が伝わってこないチベット情勢について、ロス事務局長は「大きな懸念を持っている」とした上で「日本政府は中国治安当局が国際的な基準に従うよう要請すべきだ」と力を込めた。

 中国の温家宝首相が「ダライ・ラマ14世がチベット暴動を扇動している」と批判したことについての質問に、ロス事務局長は次のように答えた。「ダライ・ラマを分離派とつなげること自体がおかしい。チベットでは大々的な弾圧が行われている」

 「チベットの情勢は正確に把握できていない」として、それまでは慎重な姿勢を崩さなかったロス事務局長は質問を機に堰を切ったように語り始めた。

 「宗教への弾圧が憂慮される。将来の宗教指導者まで弾圧しようとしていることをチベットの人々は恐れている。集会、結社の自由はない。チベットの人々がデモをしたい気持ちはわかる」

 将来の宗教指導者とは、1995年、ダライ・ラマが認定したパンチェン・ラマ(ダライ・ラマに次ぐチベット仏教界のナンバー2。阿弥陀仏の化身と言われる)のことである。認定された直後に中国政府によって拘束された。当時6歳。世界最年少の政治囚とされるが、その後、パンチェン・ラマは行方不明になっている。

 中国政府は代わりに、自らに都合の良い別の少年をパンチェン・ラマに仕立て上げた。チベット仏教を形骸化するものとして国際社会が批判している。

 こうした上で、ロス事務局長は「新疆ウイグル自治区でも同じことが起きている」と憂慮の念を示した。こちらはイスラム教徒への弾圧である。

 ビルマの軍事政権を支えているのが中国だとの批判があるが?との質問に、ロス事務局長は次のように答えた。

 「軍事政権に改革を呼びかける機会を中国は失った。ビルマ民主化闘争20周年の年に中国はオリンピックを迎えることになる。(ビルマ軍事政権を支援していることは)北京オリンピックに影響を与えることになるだろう」

 ヒューマン・ライツ・ウォッチとしては、オリンピックのボイコットは考えていないという。近く「HRW東京事務所」を発足させ、日本政府への働きかけを強化することにしている。


http://www.news.janjan.jp/world/0803/0803183088/1.php