2009年1月17日土曜日

国際法の中心、ハーグ

国際法の中心、ハーグ
 ブリストル大学(英国)ガバナンス国際問題センターリサーチアソシエート
  国際政治学博士 勝間田 弘

 オランダ第三の都市ハーグは、国際法の中心です。首都アムステルダムに比べると地味な町ですが、国際社会における平和づくりの
要所です。この都市は「国際司法裁判所」と「国際刑事裁判所」という機関を有し、国際法の施行には避けて通れない場所となって
いるのです。

国際司法裁判所(勝間田弘氏ホームページより)。
仕事の都合でベルギーに行ったので、電車でハーグまで足を伸ばし、二つの機関を見てきました。

◆国際司法裁判所は、町の中心部にあります。商店や住宅が並ぶ何の変哲もない街並みを歩いていると、突然、レンガ色の荘厳な建物が姿を現します。緑の庭園に掲げられた国連の青い旗が、この機関の権威を物語っています。

これは国家間の問題を扱う裁判所です。紛争の火種を抱えている国家は、武力に訴えるよりも、ここで問題解決を図ることになって
います。

この裁判所、最近では、シンガポールとマレーシアの領土紛争を裁いています。両国が争っていた小島について、領有権はシンガ
ポールに属するという判決を出しています。

ただし、この裁判所の機能には限界があります。開廷には、双方の同意が求められます。すなわち、たとえ自国が開廷を求めても、
相手国が同意しなくては裁判が始まらないのです。

これは国際司法裁判の最大の特徴です。国内の社会であれば、自分が相手を訴えれば、それで裁判が始まるものです。

この限界を背景に、残念ながら今日の世界には、国際司法裁判所に上がってこない紛争があふれています。

◆次に、国際刑事裁判所はハーグ郊外にあります。二十階建てくらいの近代的な建物で、遠くから見るとハイテクの大型オフィスビルです。

しかし近くに行ってみると、緊張感が漂っています。建物は鉄柵で囲まれており、その上には電流が流れる鉄条網が張り巡らされて
います。写真撮影は厳禁です。

これ程までに警備が厳重なのは、これが個人を裁く機関だからです。先述の国際司法裁判所が国家間の問題を扱うのに対して、こちら国際刑事裁判所は、国際社会で重大な罪を犯した個人を訴追するのです。
個人を扱うとなると、脱走、過激派による攻撃など、様々な事態に備える必要が出てきます。

この機関が裁くのは、集団殺害、民族浄化、戦争犯罪といった人道的に許されない罪を犯した者です。この機関は現在、スーダン、
コンゴ、ウガンダ、そして中央アフリカの内戦に絡む問題を捜査しています。

日本政府は、国際司法裁判所に関する条約に参加しています。したがって日本人も、人道に対する犯罪に手を染めたら被告人になり得ます。

ここに世話になるようになったら人間失格です。国際法の中心ハーグには、観光目的でのみ来るようにしましょう。

 著者略歴:1999年、上智大学で国際関係論修士号を取得。2001年、シンガポール国立大学留学。2003年、イギリス、バーミンガム大学に博士論文を提出。同年5月から、南洋工科大学(シンガポール)ラジャラトナム国際学院(防衛・戦略問題研究所)に勤務。2007年11月から現職。専門分野は、アジア太平洋地域の政治・安全保障協力、東南アジアの外交文化、および国際関係論の構成主義。2006年、自由民主党「外交論文コンテスト」最優秀賞受賞。英語検定一級。1970年生まれ。

http://www.zaikei.co.jp/article/biznews/090116/31192.html