アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官は8日、ニューヨークの国連安全保障理事会で、混乱と危険が増す国際情勢のなか、何百万人もの故郷を追われた人々の保護を担うUNHCRが直面する課題に関して、公開演説を行った。
グテーレス国連難民高等弁務官は最初に、最近の強制移動の動向を強調した。強制移動とは、世界平和と安全保障への脅迫、あるいは侵害の結果であるとし、現在世界に存在する、難民や避難民を生み出す対立の連鎖を挙げた。南・南西アジアから始まり、中東からスーダンとチャド、そしてアフリカの先端まで広がる地域には、世界中の難民の3分の2が存在している。これらの対立の構造は、今では相互関係にあり、世界平和と安全保障に対して共に主要で密接な関係をもっている。「武力紛争の被害者たちに、必要な保護と援助を提供するのは極めて重要なことであるが、我々はまた人道支援の限界と、それが国家間に根強く残る対立を解決できない無力さを知らなければならない」と述べた。この地域以外の対立も、同時に関連し合い、深刻になっているが、主に世界平和と安全保障に対して密接な関係がないことから、ほとんど国際社会から注目されていない。中央アフリカ共和国やコンゴ民主共和国がその最たる例である。
グテーレス国連高等弁務官は、対立のパターンさえも、複雑化してきていると強調し、そのパターンが現代の強制移動の形態であると述べた。強制避難と武力衝突との関係が長期化しているのは広く理解されているが、気候変動や極度の貧困、統治能力の欠落といったその他の現象とのつながりはほとんど知られていない。
アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官、安保理で演説
グテーレス国連難民高等弁務官は、人道的危機への国際社会の対応が直面する主だった課題を述べた。まずは、平和の維持がとても困難な地域での平和維持活動と、それに関わる民間人の保護である。2つ目は、活動に関わるスタッフの安全確保、同時に人道保護と支援の提供の必要性。人道支援を行う職員は、世界で最も危険な地域に配備される。「職員の安全確保は、どの人道支援機関であっても、また国連全体としても最優先事項でなくてはならない。これは絶対条件だ」とグテーレスは述べ、「そして、武力紛争が進化する中、故意に人道支援者を標的とする犯罪が増え続けており、職員の安全に対する緊急の対応規則と、一方で効果的な人道活動の間のバランスを保つことは避けられない。この問題は引き続き、我々の大きなジレンマとなっている」
各機関の代表らは演説後、グテーレス国連難民高等弁務官と、しばしば危険地帯や困難な状況の中活動を続けるUNHCRの職員に対し感謝を表明した。代表らから挙がった意見は、安保理が強制移動の原因となる紛争の打破に対し、更なる努力を続ける重要性である。紛争の予防、解決、平和構築、効果的な復興などが挙げられた。日本代表部の高須幸雄大使からも、平和構築への努力は度重なる紛争を予防するためにも、長期化する難民問題、帰還後の再統合にも必要不可避であるとし、そのための平和構築への戦略はより重要視されるべきと述べた。さらに、公平性と中立性を尊重しながらも、必要とされる人道支援を実現できるために各国の協力を仰いだ。
http://www.unhcr.or.jp/news/2009/090109.html