北欧の調停役という平和外交
ノーベル平和賞にアハティサーリ前フィンランド大統領
【パリ12日安倍雅信】今年のノーベル賞受賞者に日本人4人が選ばれ、注目を集める中、ノーベル平和賞は、アハティサーリ前フィンランド大統領に授与が決まった。授賞理由は、コソボ紛争などで調停役を務めたことだが、北欧諸国は国際紛争の調停役を買って出ることで、軍事力によらない国際貢献の道を歩み、高い評価を受けている。
ノルウェーのノーベル賞委員会は今月10日、インドネシア・アチェ和平合意およびコソボ紛争などの和平交渉で長年、調停役を務めた功績を評価し、マルッティ・アハティサーリ前フィンランド大統領(71)に2008年のノーベル平和賞を授与することを明らかにした。
1994年から6年間、フィンランド大統領を務めた同氏は、外務省畑を歩み、南アフリカからナミビアが独立した当時、国連ナミビア事務総長特別代表を務めた。同地は南アフリカが国際法上不法占領していた地域で、南アからの独立に道筋をつけることに貢献した。
05年には、インドネシア・アチェ州の地域紛争で、地元の独立派武装組織、自由アチェ運動(GAM)とインドネシア政府の和平調停を仲介した。翌年からは国連暫定統治下のセルビア南部コソボ自治州に国連事務総長特使として赴き、コソボの地位確定交渉を担当、07年のコソボ独立を事実上容認する調停案をまとめた。
コソボの調停では、欧州連合(EU)特使も務めたが、さまざまな評価があり、ロシアの反発などで不安定さも残っているが、長年の武力衝突で傷ついた同地に、平和をもたらすことに貢献した。同氏は国際紛争の和平調停の困難さを熟知していると言われ、「最終合意が得られるまで白紙状態」という認識で調停に望んでいると語っている。
アハティサーリ氏は、フィンランドが旧ソ連に割譲した現ロシア領のビープリ市で生まれ、冷戦時代に祖国を失った経験を持つ。その経験が国際紛争調停役を買って出る一つの強い信念になっていると本人は語っている。
北欧では、フィンランドだけでなく、ノルウェーも国際紛争の調停活動を積極的に行っている。両国は和平・調停活動で国連重視の考えに立つ一方、特に必要に応じ、各国が個々に取り組む重要性も示し、積極的に活動を展開している。
ノルウェーの仲介といえば、中東和平交渉で、1993年に交わされたオスロ合意があげられる。同国は、世界の地域紛争の中で最も難題の一つとされるイスラエル対パレスチナ解放機構間の紛争で、和平協定締結に持ち込むための中心的役割を担った。現在、和平ロードマップの実施にも深く関与している。
また、南スーダンの和平プロセスでは、地域協力組織の政府間開発機構が展開する平和活動に支援を行い、国際的支援の取り付けに奔走している。さらにグアテマラの和平交渉では、最終的に1996年、オスロで和平協定が調印されている。
現在進行中のスリランカの和平プロセスでは、ノルウェーが推進役として、スリランカ政府と「タミル・イーラム解放の虎」間の停戦交渉を支援し、包括的和平合意に向けて、活動を続けている。
ノルウェーのスタンスは、調停役として中心的役割を演じるのではなく、交渉当事者を側面から支援しながら、調停に関わるさまざまなグループ、国際機関、政府や非政府政府組織(NGO)を支援する方法をとっている。そのやり方が功を奏し、和平実現に成果を上げているため、世界各地から調停活動の依頼があるという。
北欧諸国は、小国で政治・経済的に安定し、地理的にも他国との利害関係を持たない一方、人道支援のためのNGO活動が非常に盛んだ。政府は、紛争地域で、そういったNGO活動の基盤のもとで調停役を務めている。
軍事力によらず、複雑な事情を乗り越え、粘り強い交渉を続け、和平合意があっても、その履行を監視しながら、復興支援活動まで行うのは簡単なことではない。だが、それだけに平和外交として高い評価を受けている。
2008/10/12 21:24
http://www.worldtimes.co.jp/news/world/kiji/081012-212454.html