2008年6月22日日曜日

中国「ネット弾圧」事情 中国人ジャーナリストが講演

中国「ネット弾圧」事情 中国人ジャーナリストが講演

黒井孝明2008/06/22


中国では電子メール1通で「国家機密」漏洩に問われ懲役10年の刑を受けているジャーナリストもいる。アムネスティの招きで講演した中国人ジャーナリストが、最近の中国のすさまじい「ネット警察」の言論弾圧ぶりを語った。

 電子メール1通が中国人ジャーナリストの運命を狂わせたことも――。日本の人権保護団体「アムネスティ・インターナショナル日本」の招きで来日した中国人ジャーナリストの張裕氏(56)が21日、中国政府に拘束されている中国人ジャーナリストや中国でのインターネット規制をめぐる状況について、東京・新宿のハーモニック・ホールで講演した。80人ほどが参加した。


「国家機密海外漏洩罪」で中国当局に逮捕されたジャーナリストで詩人の師濤氏。講演を主催したアムネスティ・インターナショナル日本は同氏の解放を求めている
 張裕氏は湖北省武漢の生まれ。1989年の天安門事件の際、トウ小平ら中国政府を批判したとして父親が逮捕されたのをきっかけに、当時在住していたスウェーデンで人権擁護団体を設立した。

 その後、月刊誌などで編集者として活動を続け、2002年、中国人の文筆家らが参加する独立中国ペンクラブに加入。現在、逮捕・拘禁されたジャーナリストなどの人権を保護する同クラブ「獄中作家委員会」でコーディネーターを務め、表現の自由を守るため活動している。

 同氏によると、現在中国ではインターネット警察(公式には「インターネット安全検閲のための特別警察」)が大きな影響力を持っている。ネット上の反体制的な発言や活動を監視したり管理する組織だ。

 中国で本格的にインターネットが導入されたのは1994年ごろ。技術の進歩に伴って利用者は爆発的に増えた。1996年には10万人だったネット利用者は、2007年には2億1,000万人にまで増加。並行してインターネット警察も活動の幅を広げており、同氏が把握しているところでは5万人以上の「サイバーコップ」が存在している。

 中国ではネット利用者の3分の1が「インターネットカフェ」の利用者だという。2004年、中国国内のインターネットカフェ20万件のうち、約半数がインターネット警察によって閉鎖ないしネット利用禁止に追い込まれた。かろうじて残った店舗のパソコンには「検閲ソフト」がインストールされた。

 ネットカフェを利用するためには、新たに配布されたIDカードを使わなければならないようにして、利用状況を監視する。これによって、利用者の氏名、住所、IDカードの番号をインターネット警察が把握。ネット上で政府批判の発言があれば、即座に発言者が特定できるようになった。

 インターネットに関連した政府批判者の有罪判決数は2001年から通算して28件。うち24件の罪名は「国家転覆扇動罪」で、2~10年の懲役刑が科せられる。ほかには「国家権力転覆罪」「国家機密海外漏洩罪」「デマ扇動罪」「社会安全命令違反」が1人ずつ。政府批判による逮捕者は2003年をピークに減少傾向にあり、同氏は「(逮捕をおそれたネット利用者の)自己規制の増加によって逮捕者は減少している」と指摘する。

 ジャーナリストで詩人の師濤氏も逮捕された1人。2004年4月、師濤氏は米国系インターネット企業「Yahoo!」が提供する電子メールサービスを利用して、1通の電子メールを海外のウェブサイトに送信した。内容は、中国共産党が天安門事件記念日の期間中に、報道機関が世間を扇動して社会的な混乱が起きないよう警告する内部指令書について。ある会議で読み上げられた文書の概要を師濤氏がメモしたものだった。

 2日後、北京市の国家治安局が「Yahoo!」の在北京代表に対し「国家機密に抵触する疑いがある」として、師濤氏が送った電子メールの内容やIPアドレスなどを証拠として提出するよう求めた。「Yahoo!」側はこれに応じた。

 半年ほど経った11月、山西省の自宅近くで師濤氏は逮捕される。翌05年4月、懲役10年の有罪判決。師濤氏は「国家機密海外漏洩罪」を犯したとされた。

 その後、張裕氏ら独立中国ペンクラブと師濤氏の家族は「Yahoo!」が個人情報を第3者に提供したとして損害賠償を求めて提訴した。2006年11月に「Yahoo!」側があらゆる支援をするとして和解が成立したが、いまもなお師濤氏は獄に繋がれたままだ。

 張裕氏は講演のなかで、「インターネットが導入されたとき、中国の人はこれで『自由が訪れた』と思った。だが、そうではないと気づき始めた。政治的な問題だけでなく、非政治的な問題、日常的なことさえもインターネット警察に監視されている」と述べた。会場から寄せられた「師濤氏のために私たちができることは?」の質問について、張裕氏は国際的圧力や意見を発表していくことが重要だと答えた。


http://www.news.janjan.jp/world/0806/0806210227/1.php