2008年4月17日木曜日

【五輪の中国】第3部 聖火異変(2)目立たないスポンサー

【五輪の中国】第3部 聖火異変(2)目立たないスポンサー
2008.4.17 08:39


 これは、北京五輪のスポンサーのうち19社について、スーダン西部ダルフール地方の人権問題解決を目指す団体「ドリーム・フォー・ダルフール」がまとめた「通知簿」だ。評価の基準は人権問題への取り組みと関心の度合い。100ページ以上におよぶ「通知簿」の結果は惨憺(さんたん)たるものだ。最高のGEでさえ、点数にすると100点満点中30点に過ぎない。日本企業唯一のTOPパートナー、パナソニックは「落第」をつけられてしまった。北米パナソニック(ニュージャージー州)にコメントを求めたが、まだ回答はない。

 女優のミア・ファローさんが会長を務めるドリームが、「通知簿」を作成しようと企業への“調査”を「ひそかに、メディアには知られることがないように」開始したのは、昨年6月のことだ。

 まず、ダルフールの視察を呼びかけた。反応はない。「よろしければ会長ミア・ファローが貴社にうかがい、説明をいたします」。こんな書簡も送った。やはり反応はなく、今度は電話攻勢をかけ「担当者の連絡先だけでも明らかにしてほしい」と要請した。

 5カ月後、こうした極秘のやりとりがすべて「通知簿」として公表されてしまったのだ。スポンサーの方はあっと驚いた。「通知簿」の評価が妥当かどうかという問題もあるが、その結果はダルフールに限らず、チベット問題に対する企業の意識の低さにもつながると、ドリームはみる。

 一方、人権団体「チベット国際キャンペーン」など153団体は連名で、聖火のチベット通過中止を求める書簡をコカ・コーラ社に送った。同社は「チベットの状況を深く憂慮する」との声明を出している。スポンサーは微妙な立場に置かれ、戦々恐々としている

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 「スポンサーにとって、手のつけようのない暴風雨でしょう」

 聖火リレーを翌日に控えた8日、サンフランシスコ市内のホテルで会った「ドリーム」の戦略担当者、ジル・サビット女史は、スポンサーが置かれた苦しい立場を、ほくそ笑むかのように表現した。

 北京五輪では、TOPパートナーと呼ばれる12企業を頂点に、64社がスポンサー群を形成する。聖火リレーでは別に、コカ・コーラなど3社がスポンサーをかって出た。だが、中国批判の世論がこれほど高まると、その矛先は企業にも向けられ、巨大なビジネスでもある五輪という広告塔に名を連ねていることが、かえってマイナスイメージとなりかねない。スポンサーの苦悩はそこにある。

 「幸せな状況とはいえないが、嵐は過ぎ去ると信じたい」。コカ・コーラ社の元役員の一人は語る。スポンサーは、チベット情勢が沈静化へ向かえば自然と嵐は過ぎ去るかもしれず、「競技が始まれば興味はそちらへ移る」と期待する。

 極秘にルートを変更するという「撹乱(かくらん)戦術」により、サンフランシスコでは沿道で聖火を待ち受ける観客もいなければ、テレビ中継もなかった。当然、スポンサーにとってもメリットは皆無なのだが、そもそもロンドンやもパリでも、広告があまり目につかない印象がある。

 スポンサーと連絡を密にする国際オリンピック委員会(IOC)のハイベルク・マーケティング委員長は「事態が好転するまで、(スポンサーと広告は)できるだけ目立たないようにする」と話す。「目立たないスポンサー」。この奇妙な表現こそ、北京五輪が置かれている厳しい状況を物語っている。

 (ロサンゼルス 松尾理也)
http://sankei.jp.msn.com/world/china/080417/chn0804170854003-n2.htm